Time for reading Mr. Shibamura!
- 作者: 西村悠,ゆでそば
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2009/03/19
- メディア: 文庫
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「読書」と言いつつ題材はそれからイメージされるものよりもう少し広く「物語」。作者がメタな視野を持ちつつも話そのものは王道なものに取りまとめ、しかしライトノベルでイメージされるフォーマットからは自由になっているのは前作まで*2と同様。
最初の「入門編」たる『千夜一夜物語』では設定から想像されるような素直なRPG的冒険になっているのですが。この段階で既に、特定の「本」に準拠したものというよりも物語の「祖形」へアクセスするための入り口としての「本」である事が示されます。
そして話の本番と言える『中世騎士物語』。最初は書名が伏せられていて状況から推測して装備して行くのですが……それがRPG的*3ビキニアーマーというのが(笑)。もっとも、RPG的ファンタジーの元たるアーサー王物語の世界なわけですから当たらずといえど遠からず、ではありますが。確かに露出狂扱いはされるよね。
物語世界に出てくる人物は物語的、というあたりでいわゆる「異世界召還物」とは違うわけですが。それが故にこそ物事の本質をつく状況がストレートに出てくる。シチュエーションゲームと化したゲーム的ファンタジーに対する批判でもあるわけですが、作品の本質はそういう所にはなくて……。
「お友達になってくれませんか。早崎さん」
あたしは長い長い時間をかけ、幾千もの言葉を吟味して、口を開いた。答えは、ただ一言。
「……いいよ」p264
現実を否定し書物の世界に逃げ込んでいた一方のヒロインが、物語という「現実」で前向きに戦う、もう一方のヒロインの姿を見そして触れ合い助け合い共にヒロイン想い人のため戦うという「経験」を得て、現実の人間関係への一歩を踏み出す。
……ひょっとして夏耶なら、春名を現実に引きずって来ることができるのだろうか。幼い頃、俺の憧れの正義の味方だったように。春名の指標に、なってはくれないだろうか。p305
タイトルにも入ってる「芝村くん」は実はヒロイン役。フィクションに逃げている春名を唯一理解できる人間として、視点キャラで実際の主人公である夏耶と彼女を繋ぐ役割を果たす介添え人。
一見すれば「物語の否定」に陥りかねないテーマを扱っていますが、実際には何よりも「物語の力」を信じている物語。
先が楽しみです。
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