“初音ミク”はキャラクタービジネスである。

言われていることは――今現在でなくパッケージを開けてライセンスを確認した時に言うべきこと、という突っ込み所を抜かせば――ごもっとも。但しこの意見には重大な視点が抜けています。
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キャラクター・ボーカル・シリーズ

バーチャル・アイドル歌手を自宅でプロデュース。

キャラクター・ボーカル・シリーズ・ラインナップ

キャラクター・ボーカル・シリーズ」(CVシリーズ)とは、魅力的な声のキャラクターを持つ"声優さん"をフィーチャーした、表現力豊かな日本人バーチャル・ボーカリストのシリーズです。

クリプトン | バーチャルシンガー・ラインナップ | クリプトン

つまり、『初音ミク』(キャラクター・ボーカル・シリーズ)とは音源である以前にまずアイドル=キャラクタービジネスである、という視点が。
改めて言うのもなんですが。『初音ミク』というのは『MEIKO』で証明された「キャラクター消費」
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伊藤 2004年の11月にVOCALOIDで『MEIKO』というのを出しました。バーチャル・インスツルメントというのはニッチな市場で、業界では1000本売れれば、「よかった、よかった」というところなんですが、『MEIKO』は初年度3000本売れたんです。『MEIKO』を出すときにキャラクターにしようという発想が生まれたわけですけど、これでコンセプトは間違っていないと確認できたんです。

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を当て込んだ路線を継承するものとして企画されたキャラクター商品。クリプトンの(ドラム音源等の)非ボーカルソフト音源の路線ではなく、むしろ(『初音ミク』に少し先行して始められた)『まぜてよ★生ボイス』

と同質のもの。なので「楽器」として扱って云々するより
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ロケットガールヒロインに『白いクスリ』を歌わせるのは有りか」

というような問いとして考えた方が妥当でしょう。



あと――野尻氏のエントリーとはあまり関係ない話ですが――これは「表現の自由」の問題ではない、ということ。

別段『初音ミク』が使えないからと言って他のボーカル音源や、あるいは「生声」を使えない、ということにはならないわけですし。

真の問題は初音ミク』がキャラクタービジネスであるという事そのものの中にあります。

というかソフト音源を持ち出すまでもなく、そもそも音楽が「売り物」に出来たのはTVのヒットチャート等で「タレント」としてパッケージングされたから。そうでない音楽は(映画音楽等の別の売りがあるものを除いて)一部の、真の「音楽好き」にしか相手にされていなかった。商業音楽とは、邦楽であろうが洋楽であろうがミュージシャンという「キャラクター」を売っていた「キャラクター商品」だった。

なので、アイドルであるはずの『初音ミク』が別のアイドルの醜聞を当てこする歌詞を(TVやニコニコ動画のような)マスコミュニケーションの場で披露する、というのは――業界の和として――まずい。

スキャンダルと無縁の永遠の16歳は今日、のりぴーを超えたことになる。

初音ミク誕生2周年――永遠の16歳が新たな声をゲットした - ITmedia NEWS

いわゆる「ボカロ界隈」というのは「ナマモノ同人」と同質の問題を抱えている。それは「声優の声をサンプリングしたから」というプリミティブな理由からではなく*1、『初音ミク』そのものがクリプトンにプロデュースされる「アイドル」だから。

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初音ミク』を使って曲を発表するということは、古典的なDTMとしてオリジナル曲を(愛好者同士で)開示し合うことよりも『アイドルマスター

のようなネットゲームに参加することにより近い、と言うべきでしょうか。自分のプロデュース(育成)したアイドルで他のプロデューサーのそれと人気勝負。ただ1つ『アイマス』と違うのは、Pが曲までエディットできる、という点。違いはただそれだけ。



ヴェイスの盲点―クレギオン〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
対立しているのは「個人クリエイターと素材企業」ではなく、「個別パッケージ曲とネットゲーム」という、今までであれば触れ合うことも無かった2つの商品原理。

CCライセンスでは、氏名表示を省けないほか、「公序良俗に反しない」といったルールも定めることができないため、オリジナルを選んだ。

「出口がない」「権利者は誰」――初音ミク2次創作の課題 - ITmedia NEWS

キャラクター・ボーカル・シリーズ」としては、これこそが絶対必要な条件だったからクリエイティブ・コモンズ・ライセンス等の既存のフリーなライセンスも採用できなかったわけで。それを外せというのは商品自体の否定。



で、ここまで来てやっと先に書いた

での問題点に行き着く。

つまり、ユーザーの方がクリプトンの「キャラクタービジネス」に相乗って自作を一般大衆に周知しようとする限り、その「キャラクタービジネス」に支配されるということ。相互依存。等価交換。

初音ミク』は政府のサービスでもなんでもない1民間企業の1製品。それをiPhoneコンシューマーゲーム機のような支配的コントロール下に置くか、WindowsLinux上のアプリのように放任するかは該当企業の任意。そして『初音ミク』が『MEIKO』の成功を踏襲した「キャラクター商品」である以上、最初から前者の路線しか取れない……。

これこそが本質の問題。法律の問題でも表現の自由の問題でもなく、商業的流通に従う制約の問題。法律・倫理においてヤバイから禁止されるのではなく、商品価値が「負」だから(問題視された時に)切り捨てられる

と、容疑にしかすぎない段階で「最高裁」にすら切り捨てられるのですから、1企業の 弊社の営業上の利益および信用*2 に基づく判断であれば当然こういう処置になるでしょう。

*1:それだけが理由ならば声優名を伏せるなり、18禁ゲーム等で使っている芸名なりを使えばいいだけ

*2:ニコニコ動画における動画削除について – 初音ミク公式ブログ