アンブロークンアロー
わ れ は こ こ に
人 類 に 対 し て
宣 戦 布 告 す る『戦闘妖精・雪風〈改〉』『グッドラック』に続く10年ぶりのシリーズ第3作
神林長平デビュー30周年記念作品帯
- 作者: 神林長平
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/07/01
- メディア: 単行本
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なんか『戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)』『グッドラック―戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫JA)』の続刊というよりそのOVA版の『戦闘妖精雪風』を踏まえた上でのアナザー、みたいな印象を受けてしまいました。
本のタイトルにもなっている『アンブロークンアロー』が圧巻。デビュー30周年記念作品
らしく著者の(雪風にかぎらず)過去作での問題意識が縮約して表されて……このシリーズ日本SFの到達点の一つ、だよね。
先の『ハーモニー』で足りなかったと感じたのは、例えば
「おまえは、つまり、ミラー細胞によるヒトの共感能力のことが言いたかったんだろう。相手が酸っぱそうな顔をすれば無意識にこちらも口をすぼめる、とか、対象は人間でなくてもいい、石を見れば、自分も硬くなったように思えるとか。そういう感覚を引き起こす、特有の細胞が脳にあるという説は、むろん大佐も知っているはずだ。彼にとっては他人事ではないだろうからな」p233 アンブロークンアロー
レベルの考察から、
おれは、人間だ。この確信以外のなにが必要だろう?
ジャムにまず伝えるべきは、この確信だ。それから始めればいい。それしかないだろう、この信念こそが、伝えるべきすべてではなかろうか。雪風は、感じ取っているだろうか。雪風は、少なくとも、人間でなければできないことがある、ということは理解しているはずだ――p259 - p260 アンブロークンアロー
へと繋げる部分。これが欠けているせいで「SF作品」でなく「SF的設定を背景に持つ物語」で終わってしまっている。*1
まあ「SFであるか否か」と「良い作品であるか否か」には関係がないですから、それ自体はどうでもいいことではありますが。
『ハーモニー』についてはさておき。
この『戦闘妖精・雪風』シリーズって、例えて言えば「綾波レイが長門有希と共に戦闘することで人間になって行く/人間であることを自覚してゆく物語」みたいなもんかも。つーかそもそも、綾波レイの レイ
はSF読みなら知らぬ人のないこのシリーズの主人公、深井零の 零
から取ったのかもしれないですし。
ところで。これの続編ってやはり デビュー40周年記念作品
として10年後に出ることになるのでしょうか。いや、待つけどね。
*1:もっとも、世間で言うSFとはこの「SF的設定」を差してSFと言われている感があるけれども