Минотавр
- 作者: 佐藤亜紀
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/05/11
- メディア: 単行本
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お勧めみたいなので読んでみたよ。
作者の佐藤亜紀氏はなんか有名作家らしい*1ので棚見れば新刊が並んでるだろといきなり本屋に行ったのですが……ハードカバーの棚に著作が並んで無い!! 一応松本市で最大の本屋だというのに!!
……まあ気をとりなおして。別の小さい本屋回ったら有りましたけどね。よかった。松本は文芸不毛地帯じゃなかったんだ。まだ。
この作品が文芸界のルネッサンスを告げる!
圧倒的な筆力と力量で絶賛を浴びた大傑作!帯
……すげー本選んじゃった。こったらおらみたくらのべえすえふふぁんたじーよみがよんだらめがつぶれるずら。
てまあそこまで気負ったりはしなかったけれども。普段読まない傾向の本ではありますが、舞台が第一次欧州大戦からロシア革命あたりのウクライナ*3てことで、個人的に興味は有ってもいま1つ知識が追いつけなかった方面のそれなので、読むためのモチベーションは充分。
てなわけで読んでみたのでした。
話の内容としてはまあ、成り上がり地主の息子な少年が革命騒ぎで戦場稼ぎにまで落ちぶれて……的なもん。でも話の内容自体はわりとどうでもよくて。主題になるのはその少年のブルジョア的傲慢さがそのまま戦場での兵士の暴虐さに連結するあたり。とにかく出てくる人間が老若男女ことごとく加害を加害とも思わない下衆ばかり、そんな情景が感情殺した主人公の主観で描かれることになるのですが、これが実は主人公自身のそれが反映された「主観」故のことで、(主人公含め)登場人物はちゃんと感情を持ちそれに苦しんでいる、ということが結果としての事実や主人公の推測によって顕になって行く、的モラリッシュな作品。
主人公がこういう人間になってしまった事も、それが故にこういう展開になりこんな結末を迎えることも、とても説得力のある形で描かれて*4いてそれに不満は無いです。ただ、正にその段階で留まってしまって……。
- 作者: ジョージ・オーウェル,高橋和久
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/07/18
- メディア: ペーパーバック
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- 作者: ロバート・A・ハインライン,矢野徹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1979/09
- メディア: 文庫
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ここらへんを立て続けに読んだ*5後なので、両作品の、主人公を「洗脳」とも言える「教育」にたたき込み作中社会自体もそれを肯定するものとして描き、その作品自体をもって「批判」とする、強引な手口のそれを読んでしまった直後だったので、どうにも薄味に感じてしまい。
いやまあ、逆に言えば直後にこの作品みたいなモラリッシュに安心できるものを読めたのは良かったのかもしれませんが。
それは別としても。エンタメ脳と化した自分なので、主人公が唯一ちゃんとした友人を持てる機会であったポトツキとのそれが、彼を社会的に破滅させるだけで終わらせず再起されれば、とか、ウルリヒとのそれもその後主人公が反芻せざるを得ないほど長生きして苦しむことになれば、とか。余計な期待と不満を持ってしまいました。
それとエロの腰の引け具合。主人公も満足を持てない純粋に加害からのマリーナとのそれ*6と、それなりに感じられただろうテチヤーナとのそれの対比とか、(主人公視点では入れるの難しいだろうけど)主人公と対比されるための兄のそれやウルリヒのそれ。エロシーンの具体的なテクスチャを欠いているので――主観視点での客観描写がキモの作品なのでそれすると作品からの欠落になってしまい――不満が。個人的には「陵辱ゲーム」プレイした記憶から引いてくればいいだけの話なので読解に困りはしないですけども。
あと、最後にマリーナがミンチになるところは見たかった、というかそれを見た主人公を見たかった気が。
さて次は、こちら優先したので中断中の『ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)』だ。戦闘妖精・雪風の最新作『アンブロークンアロー―戦闘妖精・雪風』も積まれてるし、お盆休み中に読みきれるかな。
おまけ
関連(?)でお勧めを。
- 作者: 海猫沢めろん
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/01/01
- メディア: 文庫
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こちらは加害というより被害だけれども。同じくハードウェアへの執着を軸の青春物。
- 作者: 伊藤計劃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/06
- メディア: 単行本
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ネタ的に似てるのはこれかな。というか『ミノタウロス』読んだおかげでこれを見直す気に*7。といっても『ミノタウロス』程度でこれだけ評価高いのなら、これが評価されちゃうのもしょうがないかな、的な意味で、ですが。『ミノタウロス』もこれみたく「死体の群れの中で立ち尽くす主人公」な表紙の方が合っていたかも。
戦争は関係ないけど、加害陵辱に執着する主人公の「主体」を言うなら外せないエロゲの代表作を。これ個人的には「好きな作品」ではないですが「偉大な作品」なのを認めるに吝かではないです。売れた量、主人公の人気(笑)から言っても「これをやらずしてエロゲを語るな」な作品なので(18歳以上で)エロゲに興味ある人にはお勧め。
*1:日本ファンタジーノベル大賞受賞者として名前だけは知っていたけれども著作を読んだことはなかった
*2:
*4:軍事面のそれはそこらのラノベ伝奇バトル同様と化してしまってますが
*5:どちらも再読だけど
*6:これは「加害でしか表せない」だろうけど