みんなでニコニコ金儲け - あるいはフリーなライセンスとその終わり、について知っておくべき最低限のことがら

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なんてことを偉そうに講義できるような知識も資格も私にはないので、これは大雑把かつ独断偏見によるただの物語

まず パブリックドメイン ありき

というか知的所有権なんてものが存在しなかった昔にはみんなパブリックドメインだったわけだよね。そして今でもそれは時限*1で守られているだけで、それを過ぎればみんなパブリックドメイン。創作物と認め得ない単なるアイデアやノウハウの類いも一般共有物つまりパブリックドメイン。つまりパブリックドメインというのは知識の一般的な形そのものを形容するだけの言葉。そして――経済を回すための方便として――ある特定の条件に従う創作物を商品として機能させるために知的所有権というものを作ったわけです。

BSDライセンス とか MITライセンス とか

てなわけで知的所有権なんてものは特に金もうけとか考えてない普通の人とかギークの人とかが何か出すときには無関係な概念だったはずなんですが。特許はともかく著作権については創作性のあると認められる被造物には自動的に付くという事になったので、それについて何も考えてない普通の人はともかくとして知識だけはあるギークの人にとっては問題に。そこでわざわざ「パブリックドメインに置く*2」ことを宣言したり、あるいはBSDライセンスとかMITライセンスとかの「名前だけは残してね。ちなみにあんたが勝手に使ったことで勝手に起こした不利益に対する責任は取らないので念のため」的なライセンスをつけたりといった無駄手間が発生。これにギークらしい律儀さで「改変履歴も付けてね」となると Python が使っているPSFライセンスに。いずれにしろ「自由に使っていいよ」という事を言うためにわざわざライセンスとして宣言しているわけですが。

GPL とか クリエイティブ・コモンズ とか

フリーソフトウェアと自由な社会 ―Richard M. Stallmanエッセイ集
まあギークギークによるギークのための井の中ではそれでよかったわけですけれども、市井の野良ギークならぬ企業や大学その他公共団体に飼われているギークだとその所属団体から「勤務時間に作ったものは所属団体のもの」なんていう、給料を払っている側からすれば当然の理屈を突きつけられてしまいこまってしまうわけで。そこで「医者の医療知識とか知的所有権で守られてないけど医者は営業できてるじゃん」みたいな屁理屈でごまかしてギークし続けるルールをでっちあげた。それがGPLという「作ったものをGPLで公開するなら再利用してもOK」というライセンス。つまり再利用する側にも同様に作ったものを再利用可能なものとして公開する事を強制*3すれば回りまわってこっちにも返ってくるよ、という情けは人の為ならずロジックで正当化したわけですね。(もちろん本当は「知識は普遍のものだからコモンズに置く」という信念、というか常識からのものでしょうけれども)



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それに対してクリエイティブ・コモンズというのは「利用方法を制限すれば元配布者の利益を損なわないよ。それどころか宣伝になってラッキー」てな理屈で正当化したもの。利用を非営利*4に制限するとか、改変を禁止する*5とかのバリエーションを用意し、それ相互の互換性*6まで提示して配布者の納得の行くところを選べるようにする。

どちらの場合でも目的達成のため「再ライセンスする際の条件に制限を付ける」のが基本にあるので、

第5条 制限

上記第3条及び第4条により付与されたライセンスは、以下の制限に明示的に従い、制約される。
3. あなたは、この利用許諾条項及びこの利用許諾によって付与される利用許諾受領者の権利の行使を変更又は制限するような、本作品に係る条件を提案したり課したりしてはならない。

クリエイティブ・コモンズ リーガル・コード

といった、他のライセンスとの併用の禁止を盛り込んでいて、そのせいで

に書いたような問題、つまり他の条件でライセンスされているものを混ぜ合わせる事が出来ないという制約が出てきてしまっています。*7

アニパロ同人二次創作ガイドライン

同人音楽を聴こう! (三才ムック VOL. 167)
さてヒッピー村での内規については以上でいいとして。しかし世の中のメディアの大半は生産者(Producer)‐消費者(Consumer)の関係性*8の間に生成される商品なのであって、著作権によってその商品価値を保障されています。

とはいえある作品を好きになれば、それを歌ったり描いたり妄想した二次ストーリーを作ったりするのは人間の本能というもの。というかそういった連想能力の無い人間はそもそも作品の消費者にもならないわけですから、それが商品として成り立つ事から必然的に起こっている現象。創作物を作っている現場の人間ならば――何せ同じ穴のムジナだし――当然それを理解しているわけで。

つまり、二次作品を(フリーライセンス的な意味で)「公認」してしまうと元作品の商品価値を失い、しかし「禁止」してしまっても作品としての価値を失う、というジレンマに立たされてしまう。(クリエイティブ・コモンズで提示しているそれのように完全な「非営利」に限定してしまうと「金銭的インセンティブ」という(正に商業作品の製作者が信奉している)価値を否定してしまうのでファン活動の推進にマイナスだし、そもそも同人誌という「形のあるもの」を作って同人誌即売会という祭りの場で販売ごっこをする事までが楽しみに含まれているわけですから実費の徴収すら認められないライセンスは困るし……)

月姫アンソロジーコミック (マジキューコミックス)
で、結局「同人は非営利だよ」という、コミケに行って壁を眺めるだけで破綻している事が分かるような建前を押し立ててそれを半公認*9。商業ルートと同人ルートがはっきりと分かれているような世の中だったらそれでもよかった(同人売り買いするようなオタクなら元作品のコンプくらいは当然の話なわけだし)のですが、商業→同人の一方通行ならまだしも、同人作品の二次作品(ノベル/コミックアンソロジーとかTVアニメとか)が(元作品が同人のままなのに)商業作品として流通するまでになってしまうと、そこらへんの区分けも意味がなくなってきてしまい……。

ニコニ・コモンズ

2ちゃんねるはなぜ潰れないのか? (扶桑社新書)
さて、この駄文を読んでいるあなたはCGMと呼ばれているメディアの読者を今まさにやっているわけですが。ということはメディアと言えば大学のサークルでのせいぜいが100部に満たない程度の出版数でしかもそれが豪快に在庫と化すようなものにしか(かつては)関わっていなかった人間(私)の書いた著作物を読んでしまっていたりする人間がのべにして → のカウント数ほどにも居てあなたはその一人という事になります。こんなブログが日本に限定しても100万以上*10。それに加えて2chのような古典的BBSニコニコ動画はじめ各種投稿サイトやSNSもそれ以上にありますし。つまりプロでもないしオタクでもない、パソコンすら持たない単なるケータイユーザー含めあらゆる人間がネットで作品(や作品以前の駄文)を公表し、その中には他人の著作物の二次創作も当然のように含まれるわけで。こうなってくると「ライセンスを読んでそれを守れ」なんていうリテラシーが必要な行為は機能しなくなってしまう。そこで出てくるのが「流通の場を用意してそこでライセンスを適用してしまう」という方法。まあパソコン通信の頃の「管理者の居るBBSやライブラリ」に逆戻り、という事でもありますが、そこで適用されるライセンスまでを管理側が用意する、という部分が新しいパターンかも。例えばピアプロだと投稿作品に自動的に

  • 非営利目的に限ります

と付いてしまいますので、パブリックドメインでの公開というのが出来ないことになります。
(同様に非営利に限定するライセンスならOK ――というか
screenshot

なんて企画をやって、それへの投稿には当然ながら


ライセンス条件


ピアプロ会員がこの作品を複製・頒布するにあたり、以下の条件を守って下さい。
(作品を利用したら、できるだけ「使わせてもらいました」報告してください。)

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名(のい。)を表示して下さい。
  • 作品の再配布・二次創作の際には、本ライセンス条件と同じ組み合わせ「CC:氏名表示-非営利-継承」を適用して下さい。

Creative Commons Licenseこの作品は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス「氏名表示-非営利-継承」の下でライセンスされています。

http://piapro.jp/content/y7s7ca4047b0sbh5

とか付いてますし)

そして、現在そういった作品の台風の目となっているニコニコ動画が始めた

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には利用条件の変更

利用条件は、登録作品または派生作品を公開する際に登録作品に設定されているものが適用されます。そのため、登録作品または派生作品を公開する際に必ず最新の利用条件を確認する必要があります。

http://help.nicovideo.jp/niconicommons/2008/08/post_96.html

や作品の依存関係の追跡

登録作品や派生作品を公開する際は、必ず利用した登録作品のニコニ・コモンンズIDを明示してください。ニコニ・コモンズIDを明示しないと、「ニコニ・コモンズ利用規約」に違反することとなり、登録者からクレーム等を受ける可能性があります。複数の作品を利用している場合は、全ての作品のニコニ・コモンズIDを明示する必要があります。

http://help.nicovideo.jp/niconicommons/2008/08/post_98.html

を含む詳細な規定があり、ニコニコ動画外まで視野に含んだ作品流通のコントロール手段を利用者に提供しています。

ギークの作業に適用されていたフリーでもなく、生産者の作品に付けられていた商品でもない、一般人がCGMにさらけ出す自我の表現――それはフリーにも商品にもなり得るが、そのどちらとも違う、むしろそれらより普遍的であったもの――に適応した形のライセンスが始まろうとしている……のかなぁ?

まあ私自身に関してであれば、本家 つちのこ、のこのこ。 の方で公開している Python スクリプトの大半をパブリックドメインにしている程度にはギークな側の感性の人間なので、そこらへんに対しての客観的な評価は出来ないのですが。

少なくとも、今までとは違うロジックでの一般適用されるライセンスが出てきている、というのだけは気にしておこう、と思ってこのエントリーを書いてみたのでした。

*1:著作権で50年(ベルヌ条約)、特許で20年(特許法 第67条)

*2:has been placed in the Public Domain

*3:コピーレフト

*4:http://www.creativecommons.jp/faq/3cc/5_1/

*5:クリエイティブ・コモンズでの改変禁止では複製と再配布だけがゆるされているのみで一切の改変は許されていない(http://creativecommons.org/licenses/by-nd/2.1/jp/legalcode 第3条 ライセンスの付与)

*6:クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 互換性ウィザード 日本語版(ベータ)

*7:実際、クリエイティブ・コモンズ表示-継承GFDL という素人目には何が違うのかよく分からないようなライセンス相互であっても互換性が無く混ぜ合わせる事ができないですし、それはフリーライセンス推進側でも問題になっています。(http://www.creativecommons.jp/world/2007/12/post_50.html)

*8:「お客様は神様」に奉仕する市場の奴隷な作者と、作家先生様の作品をおしいただく読者/視聴者と

*9:黙認、あるいは二次創作のガイドライン g:grev:keyword:fanfictionguidelines を公表

*10:総務省調査、国内ブログ数は1690万。アクティブブログは約300万